補聴器・耳鳴外来（補聴器の調製・TRT療法）
補聴器外来（補聴器の調製）
WHO（世界保健機関）によると、難聴は全人口の10％にみられる世界で一番多い身体障害だそうですが、ほとんどの方が自身の難聴について自覚していないか、自覚していても対処していないといわれています。とくに、加齢に伴う難聴は徐々に進行するため、対処するタイミング（きっかけ）がなく、いつの間にか聞こえにくくなっていて、日常生活で不自由しているという方が多いものと思われます。
加齢による難聴はだれにでも起こり得ることで、その時に役に立つのが補聴器です。難聴者は街中で呼び止められたり、店内のアナウンスで呼ばれたりしてもわからず、外出する自信を失ったり、会話がうまくできないために、イライラしたり、引きこもりがちになります。補聴器の装用で難聴が解消すれば、自信を取り戻すことができ、何事にも積極的にとりくむことができるようになります。
また、難聴のまま話をすると、自分や相手の声が聞き取りにくかったり、それを補うために大きな声を出したりと、周りの家族や友人も困惑してしまいます。補聴器を装用することで、話しかけても返事がない、なかなか話が通じないなどで会話が疎遠になっているのを解消でき、話す相手にとっても声をかけやすくなるメリットがあるのです。
補聴器装用が必要な方とは
- 普通に話しているのに「声が大きい」と言われる
- 「テレビやラジオの音が大きすぎる」と言われる
- 話しているとき、何度も聞き返すことがある
- 周りがうるさい状況で、話し声が聞き取りにくい
- 電話のベルやドアホンのチャイムが聞こえないことがある
- 自動車がすぐ近くに来るまで気が付かない
- 音は聴き取れるが、会話の内容がわからない
などの症状があれば、補聴器装用がのぞましいと考えられますが、個々人に必要とされる聴力は、日常生活の状況によって異なりますので、何よりも「聞こえが悪くて日常生活で困っている」という方（困っているのは本人ではなく、周りの人という場合もあります）は一度ご相談ください。
補聴器装用の流れ
- 耳鼻科医師による診察
耳の病気がないかどうかを診察します。もし疾病により難聴を生じている場合は、治療により難聴が改善する可能性があります
↓ - 聴力検査
どの音域がどれぐらい聞こえているのかを検査します。身体障がい者に該当するかもチエックします（身体障がい者の認定を受けると、補聴器購入に公的補助があります）
↓ - 補聴器メーカー相談員の方と面談（予約制）
日常生活における状況や要望をうかがいます
↓ - 補聴器の機種選定と補聴効果の確認（調製・フィッティング）、お貸出し（無料）
↓ - 日常使用での効果確認（おおむね2週間後）
後日、来院していただいて、日常生活での使用感をおうかがいし、継続使用を希望されるようでしたらご購入いただきます。
↓ - アフターケア（補聴器の調整、メンテナンス）
補聴器は購入した後のアフターケアが重要です。補聴器に慣れてきたら、さらに快適にご使用いただけるよう、ご要望に応じて再調整を繰り返します。また汗や汚れによる不具合も早期にメンテナンスすることで、大きな故障に至らずにすみます。
知っておいていただきたいこと
- 補聴器はメガネと違い、以前の聴力に戻るわけではありません。聞こえに多少の違和感はあり、使い慣れるまで時間がかかります。（装用してすぐ快適に聞こえるようになるわけではありません）
- 補聴器は一度購入すれば永久に使用できるわけではありません。耐用年数は5年程度と想定されており、難聴の進行や故障により買い替えが必要になる場合があります。
- 新聞広告や量販店でみかける集音器とくらべると、音を増幅する仕組みは同等ですが、個々人の聞こえに合わせて調整できる点が異なります。購入後も面談を重ね、いろいろな状況でより快適に聞こえるように微調整を行います。
よくある質問
- 年をとればだれでも難聴が進行するのですか？
以前は、加齢によりだれでも自然に難聴が進行すると考えられていましたが、最近の研究では、加齢よりも騒音暴露（大きな音を頻繁に聞いていた）や動脈硬化（生活習慣病が原因となります）が影響しているといわれています。仕事上、長年大きな騒音にさらされていたとか、糖尿病・高脂血症や高血圧の持病をお持ちの方は要注意です
- どれぐらいの難聴になれば補聴器が必要ですか？
一般的には、75歳以上になると高音域（高い音）の難聴を生じてくるため、「音は聞こえるけれども内容が聞き取れない」という相談をされる方が多くなります。どのレベルの難聴で補聴器が必要になるかは、個々人によって異なりますが、若くても、難聴の程度が軽度であっても、「難聴で日常生活上、不自由がある」レベルであれば、補聴器装用がのぞましいと考えられます。
使用によってコミュニケーションが円滑になり、自信をとりもどすことにつながり、社会に積極的にかかわることができるようになる可能性があるからです。また、脳に対して積極的に音刺激を与えることにより、脳を活性化し、認知能力の維持向上を図る効果もあります。
「今はそれほど困っていない。今後さらに悪化したら相談しよう」と思っていても、あまりに高齢になると、手先の器用さが失われてきて小さな補聴器を扱いづらくなったり、使い方を覚えられなくなったりして、必要な状況になったのに結局使えない・・・ということにもなりかねません。ある程度余裕があるうちに少しずつ補聴器の使用を開始し、慣れていただくのがベストといえるでしょう。
- 片耳より両耳に装用した方がよいのですか？
補聴器は原則的にまず聞こえの良い方に装用しますが、慣れてくれば両耳に使用した方が、言葉を理解する能力を高めることができます。騒音の中での言葉の聞き取りや、聞こえの方向感覚（どちらからクルマが近づいてくるのか）の向上、補聴器の音量を小さくすることができ、耳への負担感を軽く（疲れにくく）するメリットがあります。
また、両耳から音を入れることにより、脳をバランスよく刺激する効果も期待できます。ただし、いきなり両側に装用するとなると、費用もかかりますので、まず片耳装用で効果を確かめ、慣れてからにされることをおすすめします。
- 補聴器を使うとかえって雑音がうるさくて、使い続けられなかったという話を聞きましたが？
難聴になると音の弱い静かな状態に慣れてしまい、補聴器を使い始めてすぐのころは大きな音を聞いた際にうるさく感じることがありますので、段階的に調整していくことが必要です。（そのためにも、購入しっぱなしではなく、定期的に来院していただき、微調整を繰り返します）
また、以前はアナログ補聴器が主流で、雑音の制御が困難な面もあったのですが、現在は多機能になり、さまざまな微調整が可能なデジタル補聴器となっておりますので、ひと昔前の機種と比べると、格段の進歩をしています。
- 補聴器の価格や種類について
補聴器にはポケット型、耳かけ型、耳穴型などの種類があり、価格もさまざまです。
目安としては
・ポケット型：40,000～70,000円
・耳かけ型：80,000～140,000円
・耳穴型：80,000～
程度ですが、機能や形態（オーダーメイドでは高価になります）によって異なります。（専門技術者のいない）「近所のメガネ屋さんで両側で100万円のものを勧められました」といって相談に来られる患者さんがおられますが、まず、手ごろなものを片側に使ってみてから、高級な機種にステップアップすることをお勧めします。必ずしも難聴者全員に多くの機能（多機能なほど高価になります）が必要なわけではありません。
耳鳴外来（音響療法）
耳鳴とは、外から入ってくる音とは別に、耳の中で聞こえる雑音・異音のことです。心拍に伴う血管の拍動音のように、外部からも聴取できる音もあれば、本人にしか聞き取れない自覚的な音もありますが、後者の場合は客観的に聴取し評価する手段に乏しいため、根本的な治療（耳鳴を止める）は難しいのが現状です。
片側の場合も両側の場合もあり、難聴やめまいを伴う場合もあります。急性に生じた片側の耳鳴で、難聴やめまいを伴う場合は、突発性難聴やメニエール病といった疾患の可能性があり、治療により耳鳴が改善することも考えられますが、慢性的に長期にわたり耳鳴が持続する場合は、ストレスや不眠の原因となり、さらに強く耳鳴を意識してしまう、という悪循環に陥ることとなります。
耳鳴の投薬治療
- ビタミン剤で聴覚の神経を活性化させる
- 安定剤や抗うつ剤・睡眠薬で、耳鳴による不安や入眠障害を改善する
音響療法
日常生活に影響を与えるほど耳鳴に悩んでいる、という患者さんは、多くの場合、耳鳴そのものが強いストレスとなっていて、音を認知する脳の中で、耳鳴に対して不快な感情を生じさせる回路が形成されてしまっていると考えられています。
耳から脳に音刺激が伝達され、認知される際に、自身にとって重要な音や危険な音はしっかり伝えられ、認知されるのに対し、重要でない音は途中で伝達を減弱されたり、意識させないようになっています。（冷蔵庫のコンプレッサーの音や蛍光灯の電子音はずっと聞いているうちに気にならなくなっているはずです）
内耳から生じていると思われる耳鳴の音も、普段からさまざまな外部の音が入ってくるような状況では気にならないはずですが、加齢により聴力が低下すると、外部から入ってくる音が少なくなってくるため、耳鳴の音が際立って聞こえてくるようになります。
耳鳴の大きさが増強した上に、耳鳴を不快であると脳の中で繰り返し認知してしまう（自分で思い込んでしまう）と、神経回路が形成されてしまい、不安・イライラといった感情面での障害や、動悸・緊張・不眠といった自律神経面での障害を生じるようになってきます。
音響療法では、この悪循環のサイクルを自覚し、外部からわざと雑音を聞かせることにより、耳鳴の自覚を弱め、耳鳴のある状況に徐々に脳を慣れさせる（冷蔵庫や蛍光灯の音のように認知させる）という治療です。1～2年という長い時間はかかりますが、特に難しいことはなく、副作用や年齢・体調による制限もありませんので、どなたにでも可能な治療法です。
雑音を発生させるサウンドジェネレーターという器械を耳に装用して日常を過ごしますが、耳鳴でお悩みの方は、同時に難聴であることが多いので、補聴器と兼用できるタイプもあり、当院で医師及び器械メーカーの担当者の方とでフォローアップいたします。
装用してすぐに耳鳴が気にならなくなるわけではありませんが、
- 診察を受けて安心した
↓ - 気持ちが少し落ち着いてきた
↓ - 耳鳴にだんだん慣れてきた。徐々に気にならなくなってきた。
↓ - 普通に生活できるようになってきた。夜眠れるようになってきた。
↓ - 耳鳴がしていることを忘れる
↓ - 静かなところでだけ耳鳴が聞こえる
という流れで変化が表れてきますので焦らずに自分のペースで治療を続けることが重要です。
